喫茶ナゾベーム

金のかからぬ道楽の日々

13杯め 即席オールドコーヒー


 NHK『ためしてガッテン!』のファンである。
 番組の構成が丁寧すぎるため、観ていてじれったくなることもあるが、すばらしい番組だと思っている。あの番組が行う実験と検証の誠実さを信用しているし、何より扱うテーマがおれにドンピシャなのだ。健康(おれは「病気」として観てる。糖尿病、心筋梗塞脳梗塞、高血圧……すべて当てはまる)、料理、ダイエット。NHKに払っている受信料は、この番組と『おじゃる丸』で元が十分取れてると思えるほどだ。

 その『ガッテン』の今週のテーマは『ついに皆伝!京料亭に伝わる昆布ダシの奥義』だった。20余年もの長期にわたって保存することで、昆布は格段においしくなる。今回は、その20年を2時間に縮める方法を教えてくれていた。

 番組中、アミノカルボニル反応という単語が出てきた。ん、なんか聞いたことがあるぞ。そうだ、コーヒーの焙煎で重要な役割を果たすメイラード反応のことじゃないか。高校時代、化学も生物も苦手だったおれがこんな単語に反応するようになるなんて、趣味の力はなんと偉大であることよ。

メイラード反応 - Wikipedia

 「この昆布用の技、ひょっとするとコーヒーに応用できんじゃねーの?」と思った。幸いにも手持ちの道具だけで試せる方法だったので、さっそく実験してみた。

 『ガッテン』の番組内容は → こちら

 実験内容は、番組の"昆布"を"コーヒー生豆"に置き換えただけ。かいつまんで書くと、こうなる。

 生豆を日本酒に漬ける
 ↓
 オーブンで加熱する。110度で1時間
 ↓
 焙煎


 おれもまるっきりのバカではない(と思っている)ので、この思いつきがすばらしい結果を生み出すとは考えていない。それほど楽観的じゃないよ。結果について事前に思い描いた円グラフはこんな感じだ。



 円グラフにするまでもなく、「まあ失敗するだろう」と予想していた。焙煎の段階までたどり着けないことも十分に考えられる。と、検証前にあらかじめがっくりしておくことで、本番でのショックを緩和しておこうというせこい知恵である。

 事前に考えられる問題点として、昆布とコーヒー生豆の"処理後の扱い"の違いがあった。昆布は110度のオーブン後に出汁として利用されるので、100度までの熱にしかさらされない。一方のコーヒー生豆は、焙煎されるわけだから200度を越える高温で熱せられることになる。
 さて、この違いがどう結果に影響するものか。

 さっそく実験開始。

 「どうせ失敗すんだから」と思っているので、あまり高い豆はつかえない。半端に25グラムだけ残っていたマラウィのゲイシャ・チャカカがあったので、それをつかうことにした。



計量。キッチンメジャーはもちろんタニタ。




欠点豆をハンドピックする。発酵豆などの著しい欠点豆は
なかった。3粒ほどはじいてつぎの段階へ。




水洗い。豆をネットに入れて流水で洗う。
この段階でチャフを減らしておかないと、
オーブンの中がたいへんなことになりそう。




1分ほど洗ったら、タオルの上に広げる。
死豆がないかをチェックしつつ、水気を
拭き取る。この段階で豆の緑が濃くなる。




小皿に豆を入れ、全体を日本酒に漬ける。
今回は1分ほど。つかったのは剣菱だ。




いったんザルに豆をあげ、日本酒を切
ってからトレイの上に豆を並べる。で
きるだけ重ならないように。センター
カットが上を向くように並べてみた。




この間にオーブンを110度で予熱して
おく。じつはオーブン機能初体験だ。




トレイを設置して、60分待つのだぞ。
写真で見たらレンジがばっちかったので
画像を色鉛筆風に加工してごまかす。




60分後。近くで見ると色ムラがあるが、
遠見にはきれいに炙った感じになった。
この時点で25→23グラムになっていた。


 この先は焙煎なのだが、なにぶん煎り上手をつかってひとりでやっているので撮影する余裕がない。
 ふだんの焙煎と大きくちがったのは、1ハゼが来た段階で、すでに豆の色がかなり濃くなっていたこと。1ハゼが来たのも焙煎開始後5分で、同じ火加減でいつも焙煎している感じよりも3〜4分早かった。2ハゼまで煎るつもりだったが、みるみる豆が黒くなっていったので、墨になる前に、1ハゼ開始後2分30秒で焙煎を終了した。



2ハゼ前とは思えない色。ハイロースト
なのに色は堂々のフレンチである。




焙煎後の豆は20グラム。これをすこし粗めに
挽いて、ネルドリップで抽出した。

 で、味の感想。
 失敗するだろうという予想をうれしく裏切って、苦味がドスンと来る堂々たる深煎りのコーヒーになった。おもしろいなと思ったのは、あと口にスパイス系の感覚があったこと。でも喉に張り付いて咳き込むようなスパイスではなく、「大人じゃん」と言いたくなるような感じ。
 仮に、ふらっと入った喫茶店でこのコーヒーが出てきたら、おれは「やるじゃん」と思うだろう。

 実験はひとまず成功と言えるだろう。
 反省点は、実際の焙煎度合いと経過時間がおれにとって未知の関係になったこと。「1ハゼと思ったのが、じつは2ハゼだったのか」と考えたくらいで、もしそうであれば納得のできる色と味だった。しかしオーブンの中で1ハゼが起きた様子はなかったし、焙煎前の豆の状態も"ダブル焙煎の前半"よりも浅い感じだったから、その可能性は低いと思う。

 もう一度実験することがあれば、オーブン1時間のあとで、豆をしっかり冷却してやってみようと思う。今回は熱が取れる前に焙煎しちゃったから。
 今回は余った豆25グラムをつかったが、結果的にはそれでちょうどよかった。30グラム以上あると、オーブン用の皿に隙間を保って並べられないから。大量生産には向かない方法、ってことだな。