喫茶ナゾベーム

金のかからぬ道楽の日々

20杯め ご縁のも能力高かったら

 5月5日。こどもの日。

 

 「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」日だそうだ。

 感謝されるのは母だけかあ。

 母の日もある5月は mounth of mothers だな。

 

 スーパーで合い挽き肉を買った帰り道、うしろから自転車に乗ったお母さんの声が近づいてきた。

「5円のものを6個買ったら?」

 自転車で併走する女の子が元気に答える。

「100えーん!」

 もう、と言ってお母さんが質問を繰り返す。

「500えーん!」

 

 振り返るまでもなく、2台の自転車とおれとの距離、おれを追い抜くまでにかかる時間、女の子が小学校の低学年であること、彼女がふざけていること、わかっていながらお母さんが質問を繰り返していることがわかる。

 聴覚ってのはたいしたもんだな、と思ったときに固くも柔らかくもない小さなものが地面に落ちる音がして、ふたりがおれの横を抜き去っていった。

 

 ライター? と訝しみながら拾い上げると、開封前のガムだった。こどもの日のささやかなプレゼントとして買ってもらったのだろう。

 すでに2台の自転車はおれとガムを10メートルも置き去りにしていた。掛け算に夢中で、呼びかけても聞こえないだろう。

 50メートルほど先にある踏切が運良く閉まっている。追いつけそうな気がした。

 おれくらいになると、小走りもダッシュも速さは変わらない。へたに本気を出したら脚がもつれてすっ転ぶのがわかっているから、小走りで追いかけた。

 ふだんならそんなことはしない。でも今日はこどもの日。

 

 ふたりはあと3回も漕げば踏切というところまで進んでいたが、遮断機が開かずモードに入っているようで、無事にガムを返せそうだ。

 と安心したら、ふたりはひらりと脇道に曲がっていった。

 

 それから3日のあいだ、買い物に出るたびに携えていたガムが持ち主の元に帰ることはなかった。

 

 こどもの日に買ってもらったガム。なくしちゃったことを忘れないでいてくれるといいな、あの子。

 

 今回のタイトルは、スマホに音声メモで「5円のものを6個買ったら」と囁いたときの結果。

 ガムにはご縁がなかったんだな。

 

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