喫茶ナゾベーム

金のかからぬ道楽の日々

12杯め カロリズムでダイエット(後編)


(前編は → こちら)

 初期不良品をつかんでしまったのが怪我の功名となり、タニタへの印象がよくなった。そんなおまけといっしょに、おれのダイエット生活にカロリズムが加わった。これが前編のあらすじね。

 カロリズムを身につけて生活するようになったのが8月6日。それから2ヵ月かけて、あるデータが集まった。ちらっと公開するまえにひとくさり、"7200Kcalの運動で体重が1キロ減る"ってことについて触れておこう。

 7200Kcal。ダイエットをしていない人にとっては「なんのこっちゃ」な数字だろうが、減量中の人ならピンとくるはず。
 脂肪1キロを燃やすと9000Kcalの熱量が得られるらしい。ただし、1キロの脂肪の中には約20%の水分が含まれているのでこれを差し引いて、9000×0.8=7200。すなわち脂肪1キロ=7200Kcalなのだそうだ。

 ここから先が怪しくなってくるのだが、「じゃあ7200Kcalのエネルギーをいつもより余分に消費すれば1キロ痩せるんじゃないの?」と考えた人がいた。それが広まって、
「(摂取エネルギーと消費エネルギー)の差が7200Kcalになれば1キロ痩せる」
という話を信じるダイエッターがけっこういるようなのだ。

 "脂肪1キロ=7200Kcalだ"というのは正しいんだろうな、とおれも思っているが、等号の前後を入れ替えたような"7200Kcalセーブすれば1キロ痩せる"となると、ちと怪しい。なぜなら人のエネルギー源は脂肪だけではないからだ。エネルギーを消費するときには"燃える原料の順番"があって、体内の小人が脂肪を燃焼炉にくべ始るまえに、まずグリコーゲンがつかわれるのである。

 「脂肪が燃えるのは運動を始めた15分後から」とか「小分けに運動しても脂肪は燃えるらしいぞ」なんてことがダイエッターのあいだで話題になるのも、この"順番"があるからだ。いきなり脂肪を炉にぶち込めるのであれば"7200Kcalセーブすれば1キロ痩せる"理論の信ぴょう性もぐっと高まるわけだが、それはあくまで「ならば」の話で、現実はそう甘くない。ウォーキングの第一歩めから脂肪の燃焼が始まってくれるなら、こんなに楽なこともないんだけどね。そこらあたりの"夢"につけ込んだ怪しい製品がいっぱいあるけど、騙されちゃいけませんぜ。 

 ここから先はおれの勘のようなものになるが、「でも、7200Kcalで脂肪が1キロ減る"って、じつはそう間違ってもいないんじゃないか」と感じたのだ。さすがにちょっとは効率が落ちるだろうから、8掛けにして7200Kcalで0.8キロ、1キロ減らすには9000Kcalの"エネルギーの赤字"を出せばいいんじゃないか、と思ったのだった。根拠はない。あくまで希望混じりの勘ね。

 では実際にはどうなのか。「カロリズムをつかってそれを検証してみよう」と思い立ち、2ヵ月かけてある程度のデータを集めた、というのが今日のこと。
 具体的には、基礎代謝、総消費エネルギー、摂取エネルギーの3項目を毎日記録し、
(総消費エネルギ)マイナス(摂取エネルギー)
の差を累計していった。日々の赤字エネルギーを積み立てていったわけだ。これがお金の赤字だとたいへんなことになるが、ダイエッターにっとってエネルギーの赤字は大歓迎なのである。
 その累計が7200Kcalの10倍=72000Kcalになるまでダイエット生活を続け、結果を見て「ほんとはどうなのか」を考えてみよう、というわけ。

 この企てを思いつくのは簡単だったが、実行するのには精神力というか、"ダイエット生活への慣れ"が必要だった。と言うのも、
(総消費エネルギ)マイナス(摂取エネルギー)
の値を毎日マイナスにしようと思ってしまったから。つまり、"理論的には毎日痩せ続ける食生活・運動生活"を続けたってことだ。日によって「食べ過ぎちゃった」とか「ちっとも運動しなかった」ってのが普通のダイエッターの生活だし、実験の結果にもかえって"人間味"が加わってよいことだと思うのだが、ほら、おれはガキだから。一度決めたらゴールまで最短距離で走らないと、途中で飽きちゃう危険があるんですよ。それを自覚してるもんだから、毎日必ず"摂取エネルギーのほうが下回る"ようにしたのだった。
 ただし、あまりに食べないと体を壊すので、すくなくとも1200Kcal、できれば1500Kcalは摂取するようにした。結果、寄り道をほぼすることなくデータを集めることに成功したのだった。

 そうそう、この実験(と言うほどしっかりしたものじゃないけどね)には、様々な誤差が含まれていることを書いとかないと。

 まず、カロリズムの測定精度が絶対ではない、ということ。そりゃそうだよね、こんな小さな機械で、ばっちり正確な値が出るわけがない。そもそも、研究所にあるような大掛かりな設備をつかったところで、本当に正確な運動量や消費エネルギーが計測できるのかと言ったら疑問が残るもの。
 加えて、カロリズムによる計測の準備として体重や歩数などの設定があるんだけど、この期間のおれの体重は日々変化していて、それをリアルタイムで設定値に反映できているわけではない。つまりデータ収集の時点から誤差まみれなのである。

 さらに摂取エネルギーの計算だった怪しいものだ。たとえばミスタードーナツのオールドファッションを食べたとき、おれはサイトで調べて277Kcalと記録する。でも、この数字が本当に正確なのかはわからない。食品のエネルギー表示には2割までの誤差が認められているし、自分で食材を買ってきて調理した食事のエネルギーにいたっては、誤差はさらに増すはずだ。そして、この期間のおれの食事の大半が自炊なので、摂取エネルギーについても"あくまで目安です"と言うしかない。

 つまり、(消費エネルギー)マイナス(摂取エネルギー)という式の、引くほうも引かれるほうも、たんまり誤差を孕んだ数字だってことだ。そんなことは記録をつけ始める前にわかってたけど、"あくまで目安です"の自分なりの"目安"がほしかったのだ。"ダイエットのゲーム化"のオプションとも言えるだろう。

 そんなわけだから、このデータはおれ以外のダイエッターにとってはあんまり価値がないとも言える。でも、いいのいいの、"時間と自分の体をつかった遊び"だから。ついでに体重も減って、そうなれば心臓も血管もよくなるはずなので、一石二鳥、三鳥という目論見でデータ収集生活に身を投じたのでした。

 で、実際のデータが以下のもの。
 各項目について解説すると、こんな感じ。
・日数 記録を始めてからの経過日数。単位:日
・減量体重 測定を開始した日を基準として、そこから何キロ体重が減ったか。単位:キログラム
・減量脂肪量 減った体重の中で脂肪が占めるもの。測定値はタニタの体組成計インナースキャンによる。単位:キログラム
・累積赤字 いやな名前だなあ。赤字の累計ね。単位:10000Kcal

 と、さんざん引っ張ってからエクセルシートを載せようと思ったんだけど、試してみたらちょっとうるさくなりすぎたので、簡単なグラフだけを貼りつけておく。
 データが欲しいという奇特な方がいればメールに添付するなどの形で差し上げましょう。タニタさん、いらない?



軸の設定、まちがってるよなあ……

 結果(傾向)としてわかったのは、おれの場合は7200Kcalの赤字でで体重が約1キロ減って、そのうち脂肪は700グラムちょい、ってことだ。

 結論:世間で言われてることはあながちまちがっちゃいない。
 引っ張ったわりにテキトーな結論ですまんね。でも、おれは満足。