喫茶ナゾベーム

金のかからぬ道楽の日々

8杯め イミのシャーペン


 1年ほどまえに初めてビバホームに行った。ホームセンターだ。
 「百均ってなんでもあるなあ」と驚いていたおれが、「なんでもある」の桁がひとつ上がるホームセンターで興奮したのなんのって。

 そのときは本棚用の木の板を10枚ほど、指定した寸法通りに切ってもらい、両手にぶらさげて帰った。だからよぶんな買いものができなかったのだが、ひとつだけ後ろ髪を引かれる商品があった。

 それがイミのシャーペンだ。

 『喧嘩商売』というマンガがある。脳梗塞で入院していたときに差し入れてもらったヤングマガジンでこの作品のおもしろさに触れた。文学と梶原の決闘の回だった。
 それより数年まえに、たまたま連載第一回目を読んでいたのだが、当時は何の魅力も感じなかった。病床で「化けたなあ」と思いながら、何度も読み返した。
 絵はへたくそだ。デッサンがなっちゃいない。しかしストーリーの組み立てかたが緻密かつ巧みで、退院後に全巻を揃えるほど引き込まれた。

 単行本19巻にイミ・レバインが登場する。イスラエル人で、クラヴ・マガという格闘技に通暁した男。このイミが凶器としてシャーペンを使うのだが、それと同じものを1年前のホームセンターで見つけたのだった。













 今日になって、そのシャーペンが無性にほしくなった。ああいった店の品揃えは流動的だろうから、行ったところでお目当てのペンがある保証はない。「なくても泣かないこと」と、あらかじめ決めておいて家を出た。

 ホームセンターまでは家から3キロ弱。自転車なら「すぐそこ」と思える距離だ。しかしおれは自転車をやめてしまったので、歩くしかない。一度タクシーで行ったことがあるが、まったく道を知らない運転手に当たってしまい、おれが助手席に移動してカーナビで検索したあげくに2000円も取られたことがある。
 歩くには遠いと言えば遠いし、近いと言えば近い。いや、近かないね。でも歩く。いまはちょうどダイエットバトルの終盤なので、脂肪を燃やすために大股の早足でずかずか歩いて行った。






 何度か行ったことのある場所なので、さすがのおれも迷わずに着くことができた。こういった、床面積の広い平屋の建物は、アメリカや地方都市にしかないものだと思っていた時期がある。家から歩いて行ける距離にこのタイプの建物があるのが、いまでもすこし不思議だ。






 ホームセンターと平行に首都高速が走っている。高架の下は緑のネットを壁代わりにして、フットサルの練習場になっていた。






 店内に入って文具コーナーに行くと、テプラの替えテープが豊富に取り揃えられていた。なかなかの壮観。いま使っているぶんがなくなったら、また歩いて買いにこよう。






 筆記具のコーナーに行くと、あったあった、ありましたよ、イミペン。
 0.3ミリと0.5ミリがある。はて、『喧嘩商売』に登場したのはどっちだろう。筆記具としてではなく、相手の目を突き刺すための凶器だから0.3ミリかもしれない。しかしおれがつかうのに0.3ミリでは細すぎる。「使わないものは買わない」という生活信条があるので、0.5ミリを選んだ。






 税込みで837円。予想していたよりすこし高かった。
 家に戻ってからじっくり見ると、ペンテルのグラフギアという商品名だ。グッドデザイン賞も取っているようで、定評のあるシャーペンらしい。






 これで目を突かれそうになったら怖いだろうな、なんて思いながら、『喧嘩商売』の絵の上にイミペン、いやグラフギアを置いてみた。






 すこし字も書いてみた。重さがいい感じで、なかなか書きやすい。







 気に入りました。